映画 騙し絵の牙
ネタバレありの感想です。
原作小説は読んでません。
・感想
もうちょっと騙してくれてもよかったのではないでしょうか?
画像の看板では騙し合いバトル、となっていますが騙していたのはほぼ一方的に速水だけ(他の登場人物は偽っている事は多々ある物の騙し合いではない)。
その速水にしても新社長(伊庭惟高)かもしくは先代社長の指示で動いていた、というのは結構予想しやすい展開。
騙し合いバトル、というのを全面に押し出すならもっとそこに比重を置いて作って欲しかったと思います。
しかしストーリー展開、そしてオチ的には面白かったと思います。
結局のところ人を一番騙してきた速水が騙されたのは、一切人を騙す気がなかった高野、というオチ。
騙された、という言い方はちょっと微妙ですが(高野は騙す気が一切ない)愚直過ぎて人を騙す気が一切ない高野に結果的に騙された形になってしまったので。
高野その仕事っぷりから人を騙す事は一切ない、突っ走りすぎる事もあるがそれは自身に正直すぎる生き方をしていたから。そのことを誰よりも理解していた速水だけに逆に思わぬところで足元をすくわれる形となってしまった。でもこれは騙し合いバトルの結果ではなく人を騙し続けた結果、目標達成寸前で騙す気がなかった人間に騙される事となってしまった、というだけなんですよね。
騙し合いバトルではない。
話自体は面白かったのですが宣伝文句に騙されてしまった、という感じですね。
個人的にはコンフィデンスマンのような展開を期待していたのですが…作品自体は悪くはないものの期待していたものとはちょっと違っていた、という感想です。
さらっとwiki見た感じなんか原作とストーリーがだいぶ違う印象を受けたのですがどうなのでしょうか?ちょっと原作が気になります。
以下雑記
・予告
「登場人物全員ウソをついている」
…この予告が嘘でしょうか?
少なくとも高野は嘘をついていないはずです。
結果的に速水を騙した形になってしまっただけで。
間違い探しで〇個あるから探してね、の〇個が違っている感じ。
あと
高野「人を騙してそんなに面白いですか?」
速水「めちゃくちゃ面白いです」
の台詞。よくある場面場面を繋ぎ合わせての嘘予告ですが逆にこっちを真実にしてた方が面白かったような気がしないでもないです。
高野って手法的には無茶はやっていますがその実、目的自体はきっちりしていてある意味真面目なキャラなんですよね。
目的の為には炎上上等。面白い、生き残れるものを作るといった目的に対しては非常に真面目。その手段を問わないってだけなので。
騙す事が目的ではなく騙すのはあくまで手段。
だからこそ終盤新社長が戻ってきてからはある意味大人しいキャラになってましたし。薫風社での目的自体はほぼ達成目前だったので。
だからこそ自分が騙されてしまった場面では応酬もできずに次の一手を考えるしかなかった。
これが騙す事も目的としていたらもう少し高野と速水のやり取りがあったかもしれないのですが…。
ラストの高野はちょっと残念でした。
・矢代聖
偽物の方。
この人関係は分かり易かった。
期待の、とはいえ新人小説家に社内を見せびらかすように案内する必要もないので。
文章の内容自体に一切触れなかったのも伏線と言えば伏線なのですが…まあ初登場時から怪しすぎたので。
それはともかく記者会見のシーンは面白かったです。ここでぶちまけるとは思いませんでした。
あそこであれだけ完全に暴露してしまうと「小説薫風」の存続云々の話ではなく薫風社全体に大きな影響も与えそうな気もします。
賛否があった城島の銃刀法違反事件なんか比じゃないぐらい薫風社全体にとってマイナスになると思うのですがね。
そういった意味合いでもあそこであれだけ暴露するかと思ってしまいました。
・城島咲
ジョージ真崎?でしたっけ?
発砲事件で手が血まみれになっていたのは3Dプリンタで作った模造品?が暴発したからなんでしょうか?
まあ何にせよガンマニアで実際に作って持ち歩いてしまう、という結構ヤバイキャラですが。
それだけにラストシーンは説得力はあったと思いますが。
賛否はおいといて話題性抜群。ほかにない才能もあって速水が入れ込むのもわかりますね。
ただ発砲時の描写がどんどんリアルになって最終的にまたやらかしそうなのが難点。一度人を(不可抗力とは言え)撃った人間なら再度やりかねない。
・二階堂大作
大御所小説家。
小説の内容はともかくとして高齢男性小説家のグラビアって需要あるのか疑問。
話題にはなりそうですが。
本人もノリノリでしたしね。
・東松龍司
専務。機関車東松。
結局先代社長の隠し子みたいな話はなんだったのか。
別に隠し子だったとしても違っても話の本筋に影響はなさそうですが。
しかし5年前に先代社長から承認を得た計画が時間かかりすぎたからボツ、とか言われても本人的にはどうしようもなかったと思うのですが。
社長じゃないんだから(社長といっても110年続いた出版社を大幅に改革するのにはそれなりの手順が必要だと思いますが)根回しして、足場固めて、機も訪れて(先代社長急死)…からようやく計画に本格的に着手、といった段階で時間かけ過ぎてもうその考えじゃ通用しないよ、的な話をされても本人的にはどうしろといった話になると思うのですが。
しかし先代社長の息子だったらもう少し計画がスムーズに行ったのかもしれませんね。そういった意味合いでは社長の息子ではなかった(恐らく)のは意味があったのかもしれません。
・宮藤和生
常務
あまりにもいいところがなかった気が。
一方的に他者からやられすぎなんですよね。
騙し合いバトル、というのならもう少し常務をやり手のキャラにした方が良かったと思います。
矢代の引き抜きにしてもトリニティ副編集長から持ち掛けたっぽいですし。自身ではほぼ何も仕掛けていなかった気がします。
・謎の男
リリー・フランキー 神座?本編のペンネーム度忘れしました
22年?間も同じ場所でリアルを追求する男。
そりゃ出版社も見限って当然だとは思うのですが。
あのリリーを発見するシーン。
過去の原稿を読み漁って手掛かりを見つけるシーンは面白かったのですが説得力に欠けると思うのです。ずーーーっと同じ場所でやらんでしょう。
もしかしたらリアリティをさらに追及して他の場所でやっている可能性もありますし。
まあそれはともかく22年も小説書かずにテストパイロット的?な事をやっていたらそれはもう小説家ではなくテストパイロットですよね。
・高野民生
お父さん。
明日には入荷しますのシーン。
Amazonで注文するのかと思ってしまった。本なら届きそうですしね。
もっとレトロな方法でしたが。
それはそうと漫画雑誌は立ち読みし放題。利益を考えず本を仕入れる、的な営業をしていたらそりゃ潰れるってもんですよね。
その反動か知らないですが娘さんは定価3万5000円の本を販売する豪気な人間に成長しましたが。
・伊庭惟高
新社長。
やろうとしている事は結構革新的なものだったとは思いますがリリーありきの企画ってちょっと杜撰じゃないですかね?時間がそれほどなかった(というかもしかしたら速水が優秀過ぎて計画が前倒しになってしまった可能性も)にしてもメインの小説家一人抜けて頓挫しかける計画って結構無謀だと思うのですが。
・速水輝
編集長。
面白いものを追求していましたがこの人普通の生活に耐えられないんでしょうね。
非常に優秀過ぎて普通のコンテンツじゃ満足できない。
普通の仕事はその能力と手段を問わない方法から圧倒的速度でこなしてしまう。
だからこそ上にはある意味疎まれるし(確実に自信の地位を脅かす存在になるはず。ある意味同類の東松は高く評価していましたが)同じ場所でルーティンワークのようや仕事には耐えられない。
だからこそ自分も満足できる個性的なものを生み出す労力は惜しまない。だからこそ面白いものができる。そういった印象です。
最後高野にリリーを引き抜きされた時にコーヒーカップを投げ捨てていましたが明らかな失敗ってあの時だけじゃないでしょうか?
それまで色々な雑誌を転々としていたのは能力の不足ではなく人間関係(主に上司との)でしょうし。
だからこそ悔しいし感情を露わにしてしまった。そう思えるシーンでした。
・高野恵
新人編集者
思えば大御所小説家に自分の意見をハッキリと伝えていたあのシーン。あそこで気が付くべきでした。この子は嘘をつけない子だと。
登場人物全員ウソをついている、的な予告でこの子も当然嘘をついていると思いながら観ていた訳ですが実際のところ嘘はついていなかった(はず)
最終的なリリーの引き抜きも騙した訳ではなく自身の能力と根気でつかみ取った結果ですしね。
他の登場人物の多くが大なり小なり自分の地位や権力の為に争いを続ける中、愚直に、偽りなく、ただひたすらに自分の意思を貫き通した結果、最終的には一番多く人を騙してきた人を騙す結果となってしまった。
映画の謳い文句(騙し合いバトル)的にはどうかと思いますが個人的には結構面白いオチだと思いました。
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