映画 クルエラ 感想

映画 クルエラ
ネタバレ有りの感想です。
101匹わんちゃんはあらすじしか知らないです。

・感想

ヴィラン・オリジン映画では個人的に今まで観てきた中で一番良かった。
オリジン系の映画って基本的には結末が決まっている、つまり結末自体は視聴前からわかっているんですよね。
当然ですがヒーロー・オリジンならとある人間がヒーローになる過程を描いた作品となる訳です。
ヒーローが、いかにしてヒーローとなったのか。最初からヒーローだった人間はいない(例外はありますが)、ヒーローがヒーローたる存在となる為の過程と試練を描いた作品となる訳です。
基本的にはヒーローなのである程度の差はあれど似たような過程を描く事が多い訳です(デップーとか例外はいますが)。

その点ヴィラン・オリジンはヒーロー・オリジンに比べて過程が複雑となっている事が多いと思われます。
何故なら人々を守る事が前提となっている(事が多い)ヒーローに比べ悪役はその悪役たりえる行為に大きな差がある訳なのです。
通常の手段では得られないようなお金が欲しい。
普通では手に入らない権力が欲しい。
単に破壊行為が好き。
といった悪意から生まれるものから
違法な手段に手を染めても守りたいものがある。
大切なものを守る為に他の人の大切なものを傷つける。
など自身にとっては正当な目的がある行為だが方法が問題であり、決してヒーローになれない存在である事もある訳です。

で、この映画。
エステラは最初から違法な手段でデザイナーになりたかった訳ではなかったはずです。
育ての母であるキャサリンの願い・自身の想い。
手段自体は非合法であるものが多かったのですが決してその願い自体は否定されるものではなかったはずです。
では何が彼女をヴィラン、クルエラに成長させてしまったのか。
それは実の母親のバロネスの影響が非常に大きかったと思われます。
キャサリンに育てられた彼女は他人とは違う気質を持っていた事は確かですが決してヴィランとなる存在にはなり得なかったと思われます。
バロネスにその才能を見出され、彼女の元で成長させられる事により、彼女はエステラではなくクルエラとなってしまった。
キャサリンの影響もあったためかバロネスのような自分以外の人間を信じない人間にはなりませんでしたが手段を選ばずその目的を叶えようとする姿が間違いなくヴィランであると言えるでしょう。
そしてこの映画はエステラがクルエラになる過程を非常に丁寧に描いていると思います。

キャサリンとの別れ。
ジャスパーとホーレスとの出会い。
バロネスに見いだされ成長。
徐々に明らかになるキャサリンとの別れの真相。
復讐心に駆られるエステラ。
ジャスパーとホーレスとの別れ。
そして再会。
クライマックスのパーティ。

どれが欠けてもエステラはクルエラとはなり得なかったでしょう。
クルエラがクルエラとなる過程を丁寧に、しかし単純な演出ではなくデザイナーらしく煌びやかな、時には意表を突いた演出。
ストーリー自体はそれほど複雑なものではなかったと思います。
上記した通りエステラはクルエラになる事が決まっているのだから。
しかしだからこそエステラがクルエラになる過程を自分は楽しめたのだと思います。
まとめになりますがキャラクター・演出・音楽等全体的に良くそれが決して複雑ではないシナリオに複雑な彩りを与え、非常に良い作品になっていたと思います。

以下雑記

・キャサリン

エステラの育ての母。
彼女は最高の母親だった、的な事をエステラは言っていましたが本当にそうでしょうか?
彼女はとてもやさしい女性である事は確かです。間違いない。
ジョン(多分作中で一番優秀かつ人情深い)から彼女なら大丈夫だろう、という判断でエステラを託された事。
母親以外ほぼ全てに反抗期を迎えているような性格のエステラを小学校、それも名門私立に入学させた事。
周囲とそりが合わず孤立してしまい、結局は退学処分となってしまったエステラを叱る事はしなかった事。
さらにはその際片田舎では大成できないから、といったもっともらしい理由を伝え、エステラに責任を感じさせないようにしていた事。
この通り彼女のやさしさは間違いなく、彼女さえ生きていればエステラは死なずエステラとして生きていた事でしょう。

でも一つだけ大きな間違いをしてしまいました。
あのバロネスから資金援助を受けようとしたこと。これ一点。

自分の周囲には自分しか優秀な人間がいない。
ありがとうという言葉は対等な関係の人間が言うものではない。
スタンガンを持って「一日遊べそう」
殺した人間を思い出して、と言われて範囲を限定して、と返す。
(実際問題何人、いや何十人やっていることか)
自分のスタイルが崩れるから妊娠は望まない。
例え生まれたとしても即座に捨てる。等々

もう映画「クルエラ」ではなく「バロネス」を作った方がいいんじゃないか的な行動をし続けている彼女が例え自分の娘だろうと資金を援助する訳もない。
10年程度も経過すれば多少は態度が軟化してるんじゃないか
資金なしにロンドンに行くのは厳しい
といった考えもあったのかもしれないですが(実際苦渋の決断っぽかったですし)あのバロネスの元で働いていて、もしかしたらバロネスがお金くれるかも、といった判断すること自体間違い。

強さ的にはディズニーのヴィランでも最弱クラスかもしれないですが精神的にはかなりヤバイ人間ですよ。まだアベンジャーズのサノスとかの方が話を聞いてくれると思います。あっちもあっちで娘に対する態度はヤバイですがこっちは完全に人でなし。恐らく才能が無ければ娘であっても娘扱いしていなかったでしょうし。
他の全ての長所を上げてもバロネスに金を借りに行った、この一点で彼女に最高の母親であったかどうか疑問が残ります。他は文句なく良い母親だと思うのですが。

・アーティ

クルエラとかバロネスが非常に危ない性格をしているので気が付きにくいですがこの人も相当危ないですよね。
恐らくアートの為なら人殺しも厭わない気もします。なんとなく。
まあ「普通」が完全に貶し言葉になる人ですからね。
そもそもエステラはともかくクルエラと普通に行動出来ている時点で危ない。

・アニータ

こちらもこちらで危ない人。
幼い頃にエステラとある程度仲良く出来ていただけでも変わり者だとは思いますが。
ところで最初に原作見ていないと書きましたがこの子が101匹わんちゃんでロジャーと結婚する役って解釈でいいんですかね?
ラストシーンの流れがいまいちわからなかったので(101わんちゃんに繋げる流れだった?)
ただこの映画だけで判断すると何故ロジャーとアニータにダルメシアンを送り付けたのかよくわからないですが。

・赤いドレス

演出凄く良いですよね。
白黒のドレスコード守っている、と見せかけてから一転赤いドレスの登場。色合い的にも映えますしその後の流れ(バロネスのドレス流用、ドレス関係ないけど6人中2人大怪我するけど良い?)もとても良いです。
しかし予告観た時はこれがクライマックスかと思っていました序盤戦だったんですね。

・蛾のドレス

実際問題あのドレスが作れるかどうかは別問題としてこれだけは言いたい。
蛾の卵だと認識した上であの衣装に満遍なく縫い付けられる辺り彼女は間違いなくヴィランです。
常人では絶対できない。
例え硬いからだとしても卵縫い付けるって相当精神病んでますよ。あの時はもう既にクルエラだったかもしれないですが。

・チャリティパーティ

猛スピードでクルエラに扮する招待客に次々と、飛び掛かる警備員には笑いましたが結構練られた作戦ですよね。
なんせバロネス以外クルエラが死んでいる事を知っている参加客はいない。
バロネス自身も彼女に追悼の意を表していた(はず。ちょっと記憶が曖昧)
そしてあのパーティは落ち目のバロネスには絶対に成功させなくてはいけないパーティ
なのでドレスコードさえ守っていれば参加客を追い返す事は出来ず、衣装の変更を要求する事も出来ない訳なんですよね。
デザイナーでもあり、武力にあまり頼れない(そもそも一般人と大差ない)クルエラが出来る最高の作戦だったと思います。
単にバロネスのパーティを自身のドレスで埋め尽くしてやろう、的な発想もあったかもしれないですが。
見た目の演出的にもシナリオ的にもキャラ(クルエラ、バロネス双方)的にもとても良いシーンでした。

・ラストの崖

パラシュートを使うってのは結構危ないと思うのですが(下手すれば叩きつけられる)まあそれは置いといて。
あの作戦ってバロネスが最終的に突き落とすと想定していないとできない作戦ですよね。
とは言ってもかつての使用人に対して躊躇なく犬笛使ってダルメシアンをけしかける人間なので他に手が無ければ人を突き落としますよね。
武器を隠し持っている可能性もあり得ますが(実際犬笛とかは持っていましたし)彼女の場合はそれは無いと言えます。
スタイルが崩れるから妊娠を嫌がったぐらいの人間が武器を大振りの武器を持つはずもない。衣装のラインが崩れますからね。絶対にありえない。
となると素手しかない訳ですが腕力に自身がある訳でもないバロネスがやれる一番簡単な方法は突き落とししかない訳ですよ。
さらに言えばキャサリンを突き落とした前科がありますし娘に対して同様の行為を行う事は想像に難くない。
つまりあの場で警備員と犬さえ押さえておけば一番可能性が高いのは突き落とし、という訳です。結構練られている作戦だと思います。あの作戦自体ではなくシナリオ的にバロネスなら間違いなく突き落とすだろうという伏線が全編にわたって散りばめられている。

さらに言えばあの場で警察が躊躇なく手錠をかけたのもちゃんと伏線あっていいですよね。警察を無能扱いしてればそりゃ印象悪くもなりますよね。
恐らく証拠自体はないにしても以前からバロネスが関わっていたと思われる事件があると疑われているでしょうし。
という訳で結局のところあの場面は完全なバロネスの自業自得という事で。あの場面以上に自業自得という言葉が当てはまる場面を私は知らない。

・クルエラ

魅力的なヴィランだと思います。
まず武力が無い事を自覚してるが故の作戦が多い(怪我覚悟で赤いドレス着たりはしていますが)。そして自身の最大の武器でもあるデザイナーとして知識・技術を最大限に活用して他のヴィランに立ち向かう。
そして殺しは極力NGな事。
最終的にバロネスを殺す事もできたはず、成り行き情仕方ない場合は殺すかも、とは言っていましたがその辺は彼女なりの線引き(殺さない、バロネスと同等の存在になりたくなかったという想い?)があったと思われます。逆に殺していたら魅力半減していたと思います。

力が無くても・権力が無くても。
強大な、時には人殺しも厭わないようなヴィランに対して彼女は自身の持てる武器、そして家族の絆を使って打ち勝った訳です。
自身の持てる武器に誇りを持ち、その範囲を逸脱する事無くなく最後まで貫き通したクルエラはとても魅力的でした。(刑務所に車で突っ込んだのはやや力押しでしたがあの場面自暴自棄になりかけてましたし仕方ない面もあるかと)
最終的には(101匹わんちゃん)欲を出し過ぎて捕まってしまう訳ですが…まあそちらは見ていないのでノーコメントで。
逆に101匹わんちゃんを見ていないからこそ彼女を魅力的に感じたのかもしれません。

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