映画 線は、僕を描く

映画 線は、僕を描く
ネタバレありの感想です。

原作小説は未読。
漫画版も未読です。

以下ネタバレありの感想です。

・感想
水墨画を通して登場人物それぞれの心と向き合う良い映画でした。

最初から最後までテーマが一貫しているのが特に良いですね。

水墨画は描きたいものそのものを描くのではなく自身の心の中にある物を描くもの。

一例をあげると椿の絵。
多くの人にとってはただの花ですが・・・
主人公の霜介にとっては時が止まる原因を思い出させる花。
千瑛のとっては水墨画を楽しんで描けていた時に描いていた最後の花。

両者ともに前に進む事が出来なくなってしまった事を象徴する花なのですがその花と、そして自分の心と向き合う事で止まっていた時を進める事になる花となる訳です。

水墨画は真っ白な紙に自由に線を描く事で、線自体が線を描いた人を、その心を表現する画。
だからこそ水墨画は物体そのものを再現するのではなく絵師の心に存在するそのものを描く必要性がある。

千瑛が技術だけならば最高峰のものを持っていても評価されなかったように。
逆に主人公が未熟でありながら「やさしい線」と評価されたように。

自身の心を通して表現する必要性がある。
最初から最後まで一貫して自身の心。そして命と向き合う真面目で良い映画だと思いました。

墨の表現も非常に良かったと思います。
序盤で何度も墨をする描写がありましたが水に溶ける墨って他にない独特なものだと思うのですよ。

過去の回想で実家が何度も出てきますが・・・実際劇中では実家は河川の氾濫で流されてしまっていました。
主人公の過去の悔やんでも悔やみきれない思い出。泥のような濁流に流されてしまった思い出。そしてその時の主人公の思い。
それら全てをひっくるめて墨で塗りつぶされていくという表現は主人公の過去から現在までの心理を余すことなく伝えていたと思います。

水墨画と墨という他にない独特のテーマで主人公達の心情を描き切ったとてもまじめで良い作品だったと思います。

以下雑記

・いただきます
食事前に毎回毎回きっちり「いただきます」をしてるんですよね。
食事シーン、調理シーンが多いのも。
そして調理前の動植物の描写が多いのも。
食材ではなくその生き物の命を描こうとしている、とても良い描写だと思います。

・古前巧
ちょっと気になったのが「お前の足かせになりたくない」的な事を言うシーン。
足かせ(正確なセリフは覚えてないですが)になってましたっけ?
むしろずっと霜介を励まし続けていたように思えるのですが。
真面目な主人公だからこそ主人公を気にする人間に対して負い目を感じてしまっていた。自分を気にしていたら前に進めない。だから自分の事は気にせずやりたい事をやれ、と言っていたのでしょうかね?

・西濱湖峰
湖山先生が倒れた時代役をやってたシーン。
墨がはねた時「あっ・・・」っていってしまうのはらしさが出ているシーン。
言わなきゃバレそうにないのに口に出してしまう辺り凄いらしさというかキャラの良さが出てますよね。その後きっちりリカバリーする辺りも。

しかし墨って凄いとびやすいのでこの手の失敗多そうで怖いですよね。習字ですらちょっと油断すると墨があらぬ方向に飛ぶのに。
その辺も含めて心を表現しているのでしょうか?

・篠田湖山
結局主人公を弟子にしたのは「真っ白な心」を持っていたからでしたっけ?
この辺はきっちり理解していないので想像ですが・・・

真っ白な心だからこそその心が何を描くか興味が湧いた?

千瑛が行き詰っている(心がぐちゃぐちゃで何をしたらいいかわからない。言っても聞かない)からその真逆の心の人間を弟子にすることで千瑛にとって良い影響が出ると思った?

倒れた事もあり、自身の後継者となれそうな人間、何物にも染まっていない人間を育て上げたかった?

とかですかね?
千瑛から教えるの下手くそと言われていましたが・・・あまり技術は重視してなかったんでしょうね。
水墨画は心を表現する事が必要。だからその心に見込みがある人間を見出したという感じ?

もちろん本当に教えるのが下手な可能性もあるしステーキ弁当の肉部分2人前を普通に食える若者に嫌がらせをしたかった可能性もありますが。

・篠田千瑛
結局年齢がよくわからなかった。
ウーロンハイを普通に飲んでいた事から20歳は超えていると思うのですが・・・恐らく大学三年生の主人公より年下なんですよね?(生きていれば妹と同じぐらいの年齢とか言っていたような)
つまり20歳?
初登場シーンで大人びた表現、そしてプロとしてやっているようなシーンがあったのでてっきり主人公より年上かと思ったのですが・・・年下って事でいいんですよね?

・青山霜介
結局両親はどうしているのか。
原作だと亡くなったのは妹じゃなくて両親っぽいんですよね(Wikipediaのあらすじ)
映画となんか両親の存在が希薄というか妹ばかりに焦点が当たっていたのでよくわからないのですが・・・実家流されているからその時に両親も亡くなってますよね。多分。
しかし亡くなったと明言はされてなかったような気がするので・・・よくわからない。

しかし妹からの最後の電話のシーン。切ないというか・・・あれだけの事があれば心壊れますよね。忘れろと言われても無理な気がします。
だからこそ何か一心不乱に打ち込めるものが必要だった訳でそのきっかけが主人公、千瑛にとって重要な花である椿の絵だった、という流れは非常に良かったと思います。

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