小説 一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集
ネタバレありの感想です。
2024年3月20日
無題の感想を追記しました。
感想更新遅くなってすみません。最後まで追記していく予定です。
一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集 ネタバレ 感想
全編読み終えたらネタバレ薄めの感想を書く予定。
ネタバレありの感想
名所
語り部かと思いきや怪異?
小学校3年で引っ越してきて5年経過。つまり中学生ぐらいの子供が住んでいるマンションで起こる飛び降り事件を語っているのかと思いきや、飛び降りを強いてくる怪異的存在でした、というオチ?
マンションの説明や飛び降りした人の事を語っている時は単にどんな事があったよ、的な説明にしか聞こえないのですが・・・
自殺の名所がある、遺言書が残っている、などの話をしたあたりから徐々に怪しい雰囲気になっていき・・・
気が付いた時にはもう逃げられない。まさにホラーな展開。
短編集の初回から「どパァん!」と来る非常にホラーな短編でした。
華厳の滝
実際にある、自殺の名所らしいですね。自殺者が多発する場所を名所と言ってよいのかはさておき。
怪異?は11人目の被害者に対して巌頭之感みたいなの書けたら許してやってもいいかも、的な事を言っているんですよね。
他の自殺者が多数存在する事。
多くの(全てかは不明)特に死にたがっていた様子もない事。
怪異は特に理由もなく自殺に追い込んでいる、特に人を選んでいる様子もない事から単にこのマンションの13階から14階を気に入り、自殺の名所としたいと思ってる?
なので呼び込んだ人間をに対して遺書を書くように促し、よい遺言書が書けたら許してやるよ、と言っている気がします。
名所になればそれだけ自殺者が増えるはずなので。
なかなかに酷い存在ですね。
恐らく怪異が気に入る遺言書を書けたとしても結論は変わらない事も含めて。
遺言書は書けたけどやっぱりやめました、では完全に逆効果なので。自殺者が減ってしまう。
11人目の被害者に色々誤認をさせていたようにも見える点を含めて非常に怖い怪異だと思います。
みぞ
怪異によって入れ替わった?
そもそも元の子供が行方不明になった話からして複数の大人たちから聞いた話を統合したものなので詳細が曖昧。
さらに入れ替わった子供が大人たちに何の違和感もなく受け入れられている時点でこの語り部をどこまで信用していいのかは不明ですが・・・
描写があったものは全て正しいと仮定すると・・・
”みぞ”に入ったサッカーボールを捜しに行った子供が行方不明になった
罰ゲームで溝に入った子供が別人となって出てきた
罰ゲームをしかけたグループは別人となった事を認識しているが大人たちは違和感なく受け入れている。
となれば怪異が少年が行く不明になった、という話を創り上げて子供を誘い込み、そして入れ替わった可能性が高そう?
語り部が行方不明になった少年の事を「そんな事実はなかった」と断言しているので記録には残っていないはず。
周囲の人間の認識は操作できるようなので(歴史的事実を改変出来る怪異なら別?)大人たちにそれっぽい噂を流して子供を誘い込み、入れ替わったのでしょう。多分。
最初に行方不明になった少年が実在していて”みぞ”の中で生き延びていて、たまたま迷い込んだ子供に成りすまして出てきた、というのであれば・・・それはそれで怪異より怖い。怪異でいいよもう。
せんせいあのね
結構怖い。
小学校低学年っぽい文章が逆に怖いというか・・・子供の絵日記のような文体から徐々に明らかになっていくホラーな展開はなかなか独特なものがありますね。
”黒いにんぎょう”が「こいつであそぼうぜ」とまるで友達と遊んでいるような口調で語り部(書き手?)の友達を川に沈めているのも非常に怖い。
これが大人の日記、手記のような文章で書かれていたら・・・それはそれで怖いけれどもこの独特な怖さは表現できていなかったと思われます。
この短編集の中では個人的に好きな作品。
黒いにんぎょう
ただ短編過ぎて色々謎が多いのですが・・・例えば
母親「あんたどろぼうなんてしてないよね」
黒いにんぎょう「誰にもいうなよ。とくに”あの男”には。俺の敵だぞ」のあの男
最初は文章がうまくかけなかったのに最終的には書けていたこと・・・とか。
序盤の行動で特に泥棒に該当するような行為はなかったのでなぜ泥棒をしたと疑われているのかがよくわからない。
知らない男の人が訪ねてきた。両親と話した後に「どろぼうしてないよね」との会話があった。
なので”黒いにんぎょう”はこの男性の所有物もしくはにんぎょうの言う敵?
埋めておいたのか。それとも埋めておいたのを探し当てたのかそれは定かではないですが黒い人形と関連がある可能性は高そう。
所有物だとしたらなぜ子供でも掘り返せるような場所に埋めておいたのか、という疑問はありますが・・・怪異は人を操る力があるっぽいので近くを通った人間を操っていたのかもしれません。
だったらなおさら人目のつくような場所に埋めんなよ、とは思いますが・・・。
謎の男性は黒いにんぎょうの言う通り敵で黒いにんぎょうの存在、場所を特定して処分しようとしに来たらいなかった。
なので自分の物がなくなった体で聞き込みをしていた、といった可能性が高そうですね。
黒いにんぎょうについて詳しく説明するわけにもいかず、色々回りくどい説明をしている間に話が長くなってしまった。
詳しい話はよくわからないけれどもお母さんは息子が窃盗を疑われているような雰囲気がある、ということで「どろぼうなんてしてないわよね」という聞き方になった可能性がありそうです。
文章書いている最初はうまくかけなくて書いていたら段々書けてきた、というのは文章を書く事で黒いにんぎょうが好ましい状況になるから?
人を一瞬で金縛り状態にさせる事ができる人形なので文章自体を書かせない事も出来たとは思いますが・・・とりあえず書かせてみたらこれは使えそうだと人形が判断したから後半は思うように書かせたとか?
人形の目的自体が不明ですが”敵”から逃れて自由にやりたいような感じはします。友達を川に沈めてその後なにもしなかった事から本当に単に遊んでいただけにも思えますし・・・「名所」の怪異のように特定の目的があるのではなく単に人間使って遊びたいだけの可能性が高そう。
で、「せんせいあのね」をする事によって人形の力を行使できるようになる範囲が広がるのだとしたら・・・文章がかけてきた、のではなくうまく書くように仕向けられた、という可能性が高そうです。
結局のところ詳細は不明ですが・・・それはそれでホラーっぽくてよいですね。
君島くん
君島くんの家より地域住民の方が怖い。
君島くんちの怪異っぽい存在はそんなに怖くはないんですよ。
怖くはないというか比較的あるあるなホラー描写。
その君島くんの家を受け入れている地域住民が怖い。
・君島くんの家に届け物をする行為は長い期間(少なくとも主人公の母親の祖父の代から)行われている。
・子どもたちはそれを知らない。大人たちは知らされるようだが詳細は知らされていない(詳細を知っていれば母親が主人公に聞く事はなかったはず)
・約束事を破った子供は即座に転校させられる
地域住民が君島くんという明らかにヤバイ存在を知りながらそれを受け入れ、届け物(捧げもの?)を続けているんですよね。
一時期大人がその大任を担っていたようですが・・・すぐ子供に戻った模様。
子供はある程度の期間黙って継続できる(そういった子供に役を担わせている?)可能性がありますが大人は無理だったから?誰かに言わないのも無理。約束事を自己解釈で省きそう。そもそも約束事を破りそう・・・といった経緯があって子供が届け物をする事に戻っていそう。
なんにせよ何も知らない子供達に君島くんの家に届け物をさせ続けている事は確かなんですよね。
恐らくその結末を知りながら。
まあ家に入らなければそれほど被害はなさそう(暴走すると近隣に被害はでそうですが)、約束事さえ守れば本人も無事っぽいので(完遂した人間はほぼいないと思われますが)それほど問題視していないのかもしれませんが・・・こういった現状をどうにかしようとしない地域住民が怖い。
ただし・・・次の話を読んだ後だと地域住民に対する印象が変わってくる可能性がありますが。
保護者各位
個人的にお気に入り。
保護者各位の文章だけ進行していくストーリー。
1枚目、2枚目はほぼ同一の文章。
これから微妙にこの文章が壊れていくのかな・・・と思いきや3枚目の文章が大幅に変化。
よく見ると3枚目から校長が変わっている。怪異に対してかなり詳細な情報が記され、これからどうなっていくのだろう・・・と思わせたところで3枚目の校長の不祥事?発覚。
怪異と敵対した事でやられてしまったのね・・・と思わせてからの最後の保護者各位文。
被害にあったと思われる校長が怪異として登場していて・・・と、これはなかなか怖いストーリー。
保護者各位、という文章だけでストーリーをきっちり展開させてオチまでつけるこの短編。
独自性もあって非常に面白かったです。
かにくおばさん
かくにおばさん、という呼称があっているのかは不明。
なにせラストは男性の怪異も登場しているので。
しかしラストの校長はともかく最初の「かにくおばさん」はなんなんでしょうね。
色々ホラーな見た目が描写されていますが個人的に一番気になるのが見た目が35歳前後の女性、という部分。
30前後でも40前後でも30~40台の女性でもない。35歳前後の女性。
この手の文章で35歳前後って普通書かないですよね。見た目でパッと35歳前後と判断できるとは思えない。
つまりこの「かにくおばさん」も何らかの怪異、たとえば「かにく」の被害者ではないのでしょうか?
35歳前後の女性教諭か誰かが子供達に被害を及ぼす存在に立ち向かった結果、「かにくおばさん」にされてしまった。
当事者はそれを知っているがそれについて触れると自分も被害にあう可能性が高い。なので注意勧告だけ行って後は静観している可能性が高そうです。
「かにくおばさん」の被害はせいぜい転倒して骨折するぐらいですからね。必要以上に触れなければ被害にあう可能性は低い訳です。
その事情を知らない、もしくは事情を知りつつも正義感の強い校長が立ち向かった結果、被害にあってしまったようですが・・・
触らぬ神に祟りなし、といったところでしょうか。相手から話しかけてくるのが質が悪いですが。
しかし当たり障りない対応を取るしかない学校関係者の姿を見ると前の短編「君島くん」も似たような状況に陥ったのではないかと思ってしまいます。
君島くんの家も大人たちが対応しようとした、しかしかえって被害が拡大してしまった。約束事さえ守れれば被害は出ない、という事でなにも知らない役を担えそうな子供に一任している、とも考えられそうです。
怪異に対処できるのが一番ですが対応できる人間がいない限り下手に刺激しない、という大人たちの処世術なのかもしれません。
それがいいか悪いかは別として仕方ない面もあるかもしれないと思ってしまいます。
血
個人的にはあまり好きではない短編。
怪異の存在がそれほど怖くはないと感じてしまったからでしょうかね?
怪異っぽい存在も一族と交わっているだけですしね。それで被害が出ている訳でもなさそう。
その一族を毛嫌いしていた主人公が徐々にその状況になれていく、というのは若干怖いですが・・・それが”血”という事なんでしょうかね?
なんにせよ交わっている親類たちが楽しそう。
それを見た主人公が特定の部位を熱くして、というラストがあまり怖いと感じさせないのかもしれません。
しかしこの本って対象年齢がやや低めに感じるんですよね。ルビの振り方とか見る限り。
児童が読めば怪異の存在を受け入れてしまっていく状況、変化していく心境が怖いと思ってしまうのかもしれません。
かみさまとにんげん
これも個人的にはあまり好きではない。
ラストどうなったか描写されてはいないのですが・・・
”かみさま”の口がないのは作るのが面倒だ、といった先生が亡くなった。
”かみさま”が小さくなるにつれ、”かみさま”のダメージが徐々に増えていった
これらの事から”かみさま”を放置して帰ろうとした主人公達の末路が容易に想像出来てしまう。
まあ容易に想像できたからといってつまらない訳ではないのですが・・・これは短編向けというより中編向けの題材な気がします。
”かみさま”が異形の姿をしている理由。
その”かみさま”を捧げ、最後には川に流している理由。
”かみさま”を作るのは子供だが”かみさま”を運び、残骸を処理するのは大人の役目。
などなどきっちり説明があった方が面白くなりそうな気がします。
もう少し長ければなあ、といった感想の作品。
ねぼすけオットセイQ町店301号室のノート
結構好き。
ラブホのノートに書かれた文章だけで進行していく話ですが・・・その中に楽しんでいるっぽい幽霊の書き込みがある事も含めて。
一応、幽霊の被害はあるっぽいですが死者は出ていない事。
被害も女性の姿をした幽霊が見える事、シャワーから熱湯が出るだけなのを考えると・・・やはり利用者客を驚かせて楽しんでいただけっぽいですよね。
ラストの「これ以降はページが破られている」云々は怖いっちゃ怖いのですが・・・これは利用客が勝手に破いただけですよね。それまでは幽霊っぽい書き込みがちょいちょいあるだけなので。
情報が錯綜し、幽霊っぽい存在の死因が腹上死なのか惨殺なのかよくわからないですが・・・本人楽しんでいるっぽいので大丈夫。多分。きっと。
利用客からしたら恐怖この上ないですが・・・読んでいる分には楽しい短編。
余談。
死因は腹上死でよさそう?
読み返してみると各月の2日に「楽しかった」と書き込みがある模様。
で、腹上死したカップルの命日が1月2日。
この話が書き込まれる前から各月の2日の「楽しかった」と書き込みがあるので書き込みを読んだ客がいたずらで書いた可能性は低そう。
ちょいちょい2日に書いてない月がある事が気になりますが・・・これはよくわからない。
被害自体は2日以外にも発生しているようなので驚かせる事はいつでもできるけれども2日以外は実体化出来ない、つまり文章を記入出来ないとか?
もしくは単に記入する日を統一する事で気が付いた利用客を驚かせる、といった意味合いも含めて「楽しかった」としているのかもしれませんが・・・なんにせよ人生?を楽しんでいるようですね。
さきのばし
この本の中で一番怖い。
怪異は(恐らく)一切登場していないというのに・・・。
文章自体は一番面白いんですよ。
有能っぽいバイトリーダーがトイレットペーパーをはためかせ、つけまつげをほっぺに装着し、カブトムシを頭上を鎮座させてアドバイスしているその様とか。
その後のバイトリーダーの豹変っぷりも面白い。隣の席の男性陣とのやり取りも含めて面白いのですが・・・さきのばし過ぎですよね。この話。
一体どこがホラーは話なのか。
もしかしたらバイトリーダーの奇行は怪異の影響ではないか、などなど思わせてラストのラスト。相談者の部屋に到着したところで話とジャンルが一転。
超怖い。
最初はやっちまった彼氏の処理をさきのばししているのかと思いきや・・・そんな甘い話ではなかった。カラスが定期的に啄みに来ているってのも非常に怖い。どんな状況だよ・・・。
怪異が出なければホラーは作れない。そんな事は一切なく・・・いや怪異が存在する話以上に怖い話でした。
深夜長距離バス
これはあまり怖いと感じなかった。
多分自分が長距離バス使った事ないから?
恐らく利用した事ある人にとっては長距離バスあるある、があって怖い話になっていると思うのですが・・・その辺は自分わからないので。
ホラーって日常と非日常の境目みたいなところあり、それが怖さの一因になっている部分があると思うのですよね。
タンスの角に足をぶつけた、というのは誰しもある非常に痛い話で理解されると思うのですが・・・想像も出来ない痛みってあまり痛みを想起させないと思うんですよね。
なので深夜バスに乗った体験がなければ怖さ半減というか・・・怖さが想像しづらい?
バスの乗客が人形だった、というのは確かに怖いのですが・・・まあ怖いだけの話ならこの短編集にもいくらでもあるので・・・あまり怖く感じないのです。
特にこの直前の話が超怖かっただけに。
そんな訳で人によっては超怖い話だとは思うのですが個人的にはあまり怖いと思える短編ではありませんでした。
内見
ホラー・・・?
知らない幽霊が内見についてきていて何故か爆笑している、というのは怖くはあるのですが・・・ホラーというよりギャグに見える。
登場人物のやり取りが重い白いからそう感じる?
初見は登場人物の若干かみ合わない会話に疑問を抱くのですが・・・
どう読んでも事故物件の紹介をしているよね、会話がかみ合わないのはなんの伏線か・・・と読み進めていくと最終的に謎が解明。
単に知らない幽霊が保護者の振りをして内見について来ていた、というだけの話。
なのですが・・・
内見なのに何故か喪服の格好をしている幽霊に疑問を抱かない営業の人。
その姿を見て声も出さず(出せず?)爆笑している幽霊。
一人普通に内見をしていた主人公が若干可哀そうではあるのですが・・・笑ってしまいました。
結局この謎の幽霊が完全に謎のまま(正体・目的一切不明。どこから来たのかすら不明)終わってしまったのですがそれは些細な事。事故物件を案内するよ、という気配を察知して寄って来たのでしょう。
恐らく映画の事故物件の怪異と同種の存在ですね。間違いない。
満員電車
これはちょっと怖かった。
全体的に設定がはっきりしていないのですがそれが逆に怖いのかも。
同じ満員電車に乗る、顔見知りではあるけれどもお互いに名前もしらない存在。
ある人物を助けたけれども何故か再度同じ事件が発生。
よくわからないまま解決するも徐々に恐怖を感じてきて・・・最終的にいい話で終わると思いきや、さらによくわからない状況に陥って恐怖する、という流れ。
全体的に、ものすごいあやふやで実際何が起こっているのか読んでいる読者も登場人物も全くわからない状況で話が進んでいき・・・結局満足したのは怪異っぽい存在だけ。
短編集の中でもトップクラスにあやふやな状態で話が進んでいくんですよね。
他の短編もあやふやなまま話が進んでいくのはあるのですが登場人物がほぼあだ名で呼ばれているのはこの短編だけ。
さらに言えば怪異も怪異なのかそれとも超変わった人間なのかそれすらあやふや。
しかしそれが逆に怖い。
知っているようで知らない存在。わかったつもりでわからない状況。
その辺のわかるようでわからない・・・的な描写がこの短編を怖いと感じさせるのかもしれません。
まあ一番怖いのは怪異っぽいやつが何を考えているのかさっぱりわからない事ですが。
何を考えているのか全くわからない。それだけはわかります。
空白
空白が長すぎて何がなんだかわからない・・・。
何が真実で何が嘘なのか。空白期間はいつからなのか。
怪異と思われる弟は何がしたいのか。まったくわからない。
主人公の記憶は改竄されているっぽいので他の人物からの情報を整理。
・主人公の一家は父・母・姉・主人公の4人家族?
(同窓会で弟がいたのは初耳だと言われていた。ビデオの中に映っている姉が父・母・主人公のみに言及していた)
・姉は大怪我をしている。原因は主人公ではない様子だが何かしら後ろめたいことが?
(ビデオの中の姉「悟が悪いんちゃうよ。ちゃうけど」。弟「旅行中に姉貴が大怪我したん、兄貴のせいちゃうで」)
・姉は誰か(何か?)に襲われた?
(ビデオで何かから逃げ惑うような姉が映っている)
ビデオに映っている姉が両手に包帯をしている事から何かしらの要因で両腕をケガしたのだと思われますが・・・よくわからない。
額が広い。目が離れているなどはカメラに近づきすぎたせいかもしれませんが・・・歯並びが悪いのはよくわからない。
ビデオの内容が怪異に何かしらの関係があるかと思って調べてみましたが特に関連性はなさそう。
という事でさっぱりわからない。
わからない、だけではアレなので状況を推測してみると・・・
主人公が遠因で姉が怪我をした。
直接の原因ではないものの自分が原因であると自分を責めてしまった。
その心の隙が怪異を呼び寄せてしまった・・・とか?
なんにせよ何が事実で何が嘘なのかさっぱり不明なので・・・よくわからない話、という結論になってしまいます。
怖い話ではあるのですが・・・怖い話というよりよくわからない話といった感想になってしまいました。
これは短編よりも中編できっちりやってもらった方が怖そうな内容。
「満員電車」もよくわからない事が多かったですが「空白」のようにわからない事が多すぎてもあまり怖くない話になってしまうんですかね?
はしのした
橋の下で拾ってきた子供。
というのはいたずらをした子供を諫める時に使う常套句、とまでは言いませんが全国でも使われてきた言葉の模様。
実はあなたは「はしのした」で拾ってきた・・・ですらなく訳の分からない状況で連れこられた、いや連れてきてしまった全く正体不明の子供なんですよ、と人生で一番嘘を言いづらい今際の際で言われたとしたら・・・そりゃ恐怖以外の何物でもない、というお話。
なにせ何もわからない状態。
保育園に預けられ、引き取られなかった子供はどこに行ったのか。
父親を追いかけてきた老婆はどうなったのか。
父親に連れられてきた自分はなんなのか・・・
子供だったら冗談で「はしのした」から連れてこられたよ、と言われて怖がることはあると思いますがある程度の分別が付く年齢なら冗談だと解る話。
冗談でなかったらそりゃ怖いですがそれはまた別の話。
しかしこの話は全く冗談を言えるような状態でない今際の際に冗談のような「はしのした」をされてしまった息子の心中や・・・恐怖以外の何物でもないですよね。
冗談も時と場合によってはホラーになるという良い例でした。
老婆
息子が聞いた話がどこまで本当かはわかりませんが全て本当だと仮定した場合。
老婆は息子を取り戻しに来たのではなく父親を追いやっていたのではないでしょうか?
父親は電話口で息子の声を聴いたあと、迎えに行ってないんですよね。
近くで母親と息子っぽい存在が遊んでいた事もあるのかもしれませんが・・・あんな電話が来たら保育園まで行く可能性が高いような気がします。
次の日以降は何も無かったとの事ですが父親は当日に確認しなかった事を悔いているのではないでしょうか?
それが原因で亡くなる直前に息子に伝える事になったのではないでしょうか?
恐らく息子は自分の息子で間違いない。ただし確証が持てない。
やっぱり確認しに保育園に行けばよかった。そんな思いがあったからこそ息子に打ち明けたのかもしれません。
じゃあなんで息子を迎えに行かなかったかと言えば・・・老婆の存在が大きかったように思えます。
家にいれば追ってきてない事はほぼ確実。恐らく家にいれば安全だろう。マンションだから家の場所までは特定できないはず。
もし自分が保育園に行ってそこをつけられてしまったら・・・迎えにいかない方がいいのかもしれない。
そもそも母親が息子を息子と認識している以上、今いる息子が息子であるのはほぼ確実なのだから。
という訳で保育園に行ってまで確認しなかったと思うのですが・・・それ自体が老婆の狙いだったのではないでしょうか?
ただし目的は不明。何故そんな事をする必要があったのか全く理由は不明。
もしかしたら「怖ガラセ屋サン」だったのかもしれない。ただし怖ガラセ屋サンだったら父親だけターゲットにして息子を恐怖のどん底には追い詰めないような気もしますが・・・そもそも怖がらせるのに時間をかけ過ぎ。
なのでこの話は・・・老婆の姿をした怪異が父親を驚かせただけに一票。
ねぼすけオットセイの話のように。
それが正しいと仮定すると・・・息子さんは間違いなく息子という事でハッピーエンドですね。
まあ一生悩み続けるだろうし全くハッピーではないような気がしないでもない。
青黒き死の仮面
怖い事は怖いのですが最初から不穏な空気を漂わせまくっているので・・・なんというかお化け屋敷的な怖さというか。
幸せそうな結婚式かと思いきや実は怪異に侵食されていた、とかならまだしも最初から「最初からおかしかった」ですからね。
しかも怪異の登場前に新婦の元恋人が水死したという情報が示されてしまっているので実際に怪異が登場してもお化け屋敷の本命が満を持して登場した、ぐらいの印象しか残らない。
で、登場してみても新郎、新婦が襲われるシーンは一瞬。後日談もほんのおまけ程度の扱い。
ちょっと肩透かしを食らったというか・・・貞子関連の映画で井戸が登場してこれは貞子が出てくるかな、いやでもミスリードかな・・・と思ったら普通に貞子が出てきた感じ?
ちょっとストレート過ぎてちょっとは怖いけれどもそれほどでもなかった、という感想になってしまいます。
というかこの怪異。生前いい人でしたよ、という話があったのですが本当に良い人っぽいんですよね。
式が始まる前から不穏な空気を漂わせて警告。
式が始まってもすぐに中断させずケーキ入刀までさせてからの登場。
いざ登場してみれば他の参加者に危害を加えず新郎新婦に一直線。
そして新郎新婦を溺死させた後は指輪だけを引きちぎり退散。
他の参加者にも軽症者は出ているのでターゲット以外は全く傷つけないよ、というスタンスではなさそうですがそれでも参加者に配慮した怪異。
怪異になってこれなのだから生前はとても良い人だったのでしょう。
そりゃ素行が怪しい新婦と何故付き合ったって言われますよね、という印象でした。
通夜の帰り
これは怖い。
何が怖いって実は阿部が自殺した幽霊だった・・・
ではなく阿倍の通夜の帰りに阿部の幽霊、しかも死んだそのままの状態で現れた白川に全く動じる事もなく阿部を撃退した白川ですよ。
といっても冒頭ではせわしなく缶チューハイを傾け、阿部からは挙動不審と思われていたので動揺していたのは間違いはず。
白川の独白でも「怖かったのは最初だけ」とありましたが・・・怖いの最初だけか。
やっぱり白川が怖い。
白川は以前は出版社に勤めていた、そしてかつての同僚たちや関係者などが亡くなっていると語っていたので色々と達観してしまったところがあるのかもしれません。
さらに言えば生き死には単なる運。現時点で死んでないのはたまたまだ、というのは・・・現在の職業も他者の生死に関わる事が多い仕事なのかもしれない。生死に関わっていくと徐々に感覚が鈍くなってきてもおかしくなさそうなので・・・
ただ自分も死にかけた経験がありそう。
だからこそ自分が生きているのはたまたまだ、と思っていそう。
その辺の詳細は不明ですがやはり一番怖いのは白川だと思います。
ただ白川っていい人っぽいんですよね。
少なくとも一回りしたの阿部から揶揄われる、絡まれる程度には良い人。
少なくとも悪い人ではなさそう。
阿部みたいな小心者っぽいやつが絡んでくる以上それなりに人当たりは良さそうなんですよね。
その白石に「気の済むまでやらせてやろう。いや、やっぱり御免だ」と言われた阿部も相当ですが。
・・・いや、やっぱり一番怖いのは人の良さそうな白川にここまで嫌われる事を仕出かし続けた阿部だったような気がしてきました。
人の恨みって怖いですからね。白川に多少は好き勝手やらせてやろう・・・いや、やっぱり出てくんな。それより現実を見よう、と思わせるだけの事をした阿部が一番怖いという事でよろしいでしょうか?
喫茶店の窓から
一体何がどういう事になっているのか・・・まったく訳がわからない。
この話ってよくある話の食い違いを大げさにしたら怖いよね、って話なんだと思うのですが・・・あまりに唐突に終わってしまって何がなんだかわからないよ状態。
まあ一緒に話していて一緒に見たと思われる人物が全く違ったらそりゃ話している人にとっては超怖い話だと思うのですが・・・食い違い過ぎると当事者以外には怖い話でなくなってしまうような。
少なくとも自分にとっては怖い話というよりよくわからない話になってしまいました。
しかし・・・それだけ終わるのもあれなのでちょっと考えてみます。
意味がわかると怖い話ってありますしね。
まず夫が見たもの。
鮮やかなピンクのコートを着た、黒髪の女性。10代、少なくとも20代前半。
妻が見たもの。
茶色のボロボロになったコートを着た白髪のおばあちゃん。
怒っていた、などの認識は共通っぽいので違うのは上記のものだけだと思われます。
で、並べてみたはいいものの・・・よくわからない。
両者ともにいじめられた、所有していた自転車を壊された思い出があることは間違いなはず。
その時の怒りが具現化して姿を現した、というのではあれば年齢と性別がおかしいことになってしまう。
夫が自転車を壊されたのは恐らく自転車通学をしていた学生時代の話。
妻が自転車を壊されたのは小学校時代の話。
じゃあ壊した相手が再度出てきたのかと思えば・・・それもちょっと考えづらい。
自転車が破壊されて怒り狂って出現する自転車の破壊者とか・・・全くわけがわからない。
自分が破壊する予定だったものを壊しやがって!とか思っている可能性はありそうですが・・・ちょっと不自然ですよね。
ではやはりかつて自分が恨みが自転車を壊された事でフラッシュバックして出現したとしたら?
年齢が大幅に違うのはとりあえず置いといて・・・この話の肝は登場人物の性別が不詳な事ではないでしょうか?
妻に語り掛けているのが夫であっても夫が男性である必要性はないはず。きっと。多分。
同性婚に関する法律は現時点ではないようですが・・・この話がいつのものか不明。
となると話している二人ともに女性である可能性は否定できないはず。
つまり現れたのは自分たちの怒りを具現化してしまい、それがコートを着た女性と認識してしまった、というオチではないのだろうか・・・?
よくわかっていない話をよくわからない理論で考察しようとすると訳の分からない話が出来上がる。
一番怖いのはありもしないものを妄想してしまう人間の心ではないのだろうか・・・
無題
怖いっちゃ怖いのですがよく知っていると思う人間が違う人間、いや違うなにかだった、というのはこの作者さんならよくある事。
むしろ元になった人間を始末せずに普通に家庭に入り込もうとしている分だけ優しい怪異に思えてきてしまってあまり怖くはなかった。
やはり怖さを感じるにはその存在をある程度認識する必要がある。
という事でこの怪異っぽい存在がどういったものなのかを考えてみます。
この街で噂されていた存在とこの家に来た怪異は同一の存在と考えらえます。
街の噂では「夜中に白い顔が浮いていた」「誰もいないのにおはよう」という声が聞こえた。これはこの短編のラストに出てきた存在が同じ特徴をしていた事から同一の存在である可能性が高いはず。
噂と違うのは「事故で何人も亡くなった」「あちこちで野犬の死体を見つけた」です。
事故で何人もなくなった、野犬の死体があった、というのは脅しでしょうかね?
人間や動物を食料とするならば死体が食われたりしている可能性が高い。
野犬の死体が野犬と判断出来る以上食われていないはず。人間も同様。
住んでいる場所を脅かされたくないから殺して回った可能性がありそうです。
その場合はなぜ人間だけではなく野犬も殺していたのかは不明ですが・・・ちょっと情報が少なすぎて判断つかない。
霊的ホームセキュリティのように犬嫌いだからやれる時にやっちまおう、的な判断だったのかもしれませんが・・・それはおいといて。
住んでいた場所を脅かされたから出てきた、が正解と仮定してみます。
じゃあなんで今このタイミングで出てきたのかがよくわからない。
山に塔が建設されたのはかなり前のはず。現在登場したのは何かしら意味がありそうですが・・・その辺は不明。
妻が娘が男性になんか色々された、と勘ぐっている事からそういった事案が発生していた、もしくはそういった類の輩と娘が付き合っていた可能性はありそうですが・・・それも不明。
娘に何かしらの理由があって近づいたのを怪異に利用された可能性はありそうです。
そうすると怪異の目的がわからない。
娘に成り代わって家に侵入したのであればコピー元になった娘は邪魔なはず。
服もそのままだった、発見された実の娘も服は着ていた事から服ごとコピーしたにも関わらず娘は放置して家に侵入した事になりますが・・・本当に何がしたいのかさっぱり。
娘が発見された事が発覚するまで大人しくしていたっぽいですし・・・娘が発見されなければそのまま居座っていたのだろうか。
やろうと思えば玄関入って即家族を始末する事も出来ただろうに・・・
という訳で何故、今このタイミングで、この家に来たのかはさっぱり不明ですが・・・
たまたま人間が迷い込んできたからちょっと脅かしてやろう(物理)、感じでやったのかもしれない。
最近街での噂が風化して山に侵入してくる輩が増えた。いちいち対処するのも面倒だからとりあえず関係者やっちまって脅しておこう、的な怪異?ただこれだと娘が無事な理由が完全にどっか行ってしまっているので・・・やっぱりよくわからない怪異という結論になってしまいます
という訳で色々無駄に考えてみたけれどもやっぱりよくわからない存在であり、それほど怖い話ではなかったような印象が残ってしまいました。人は全く訳の分からない存在には恐怖を感じづらいのではないでしょうか?
ただこの話。単品で読めばそれなりに怖い話であるので・・・慣れって怖いですね、という話になってしまう・・・のか?
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