七つのカップ 現代ホラー小説傑作集 感想

小説 七つのカップ 現代ホラー小説傑作集
ネタバレありの感想です。

感想というより拙い考察が多め。

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芙蓉忌

庭師の男が主人公に「あれを見ては駄目です」とだけ言った理由が気になります。

庭師が最初に登場した際は”あれ”がいる場所をまじまじと見ていただけ。
その後、主人公の前に現れた時には「見ては駄目」と告げるだけ。
危険な存在だと認識しているにも関わらずただ忠告して去って行った理由が気になります。

恐らくですが”あれ”の存在に同情していた面があるからこそただ「見ては駄目」と告げたのではないでしょうか?

”あれ”の存在を認識出来ていたのは主人公、主人公の弟、庭師だけ。
主人公と弟は精神的に追いやられている面がある人間なのでそういった人間の興味を引き、心中を迫る存在なのでしょう。
庭師はそうではなさそうなのでそういった存在が見える能力を持っているのだと思われます。

そういった能力を持つ人間が何も対処せず「見ては駄目」とだけ告げたのか。
まだ若い男のようなので見えるだけで対処する事が出来ない。
もしくは対処する方法を知らないと・・・など考えられますが庭師は「見ては駄目」と告げただけである意味満足そうに主人公の元を去って行っているんですよね。何も対処出来ていないのに。

だとすると”あれ”を危険な存在だと認識しているが見なければ命を取られる可能性はないとも考えていそうです。
実際は見ていなくても、壁を塞がれても手紙を送ってくるような存在なので”あれ”に興味を惹かれた時点で危険極まりない存在だとは思うのですがそこまでの存在であるとは思っていなかった可能性が高そうです。

不幸な生い立ちで亡くなった可哀そうな存在。
興味を惹かれれば命を落とすが見なければ危険性は低い存在。
なら他者の力で成仏させなくても自然に成仏するまで見守っていてあげよう。
危険があることを周知すれば被害はないのだから、といった考えでやっていそうな気がします。

実際は弟は殺され、そして主人公にも執拗に迫って来る存在なので認識が甘い気はするのですが・・・ある意味庭師も惹かれている可能性はあるのかもしれないですね。
男の同情を引きそうな生い立ちと容姿をしているようなので。

芙蓉の花言葉は「しとやかな恋人」
ある特定の人間にだけは見える、しとやかな恋人のような存在。
ある意味庭師の男も”あれ”に惹かれてしまっていた人間だったのかもしれません。

子どもを沈める

なぜ被害者が加害者の子供として生まれ変わったのか?

主人公が被害者が何を思い、そして何故加害者の子供として生まれたのかを考えるシーンがあります。

復讐か、それとももっと生きたかったのか。もしくは加害者にやり直すチャンスを与えたかったのか・・・と主人公は考えている訳ですが個人的には純粋にもっと生きたかったのではないかと思います。

根拠として何度も生まれ変わっている事から。
主人公の娘として生まれ変わるまで3度殺されているんですよね。
それでもなお生きたいと思っているからこそ何度も生まれ変わっていると思えてきます。

もちろん他の復讐もあったのかもしれませんが・・・生まれ変わった被害者は何をされたか記憶しているんですよね。
主人公に対して「かけた。くさいみず」と話しかけているようにいじめられた記憶、そして内容は覚えている状態。
つまりは自殺した時の状況も覚えている可能性が高い。そして殺された時の記憶も。

復讐の為だけに何度も殺されるというよりかは・・・生きたかったからこそ生まれ変わった可能性の方が高そうです。

やり直すチャンスを与える云々はなかったように思えます。
加害者の為に被害者である自分を文字通り犠牲にするとは考えづらい。

最終的には主人公がやり直すチャンスとなった訳ですがその事を伝えたシーンで被害者は一度驚いたような顔になっているんですよね。
想定していなかった言葉が出てきたような反応。
そしてその後目を細め、頷いている。
想定していない結末だったけれども自身が望む、生きたかった願いが叶えられる事に満足しているような反応をしたと考察してみます。

まあこの後、愛情を注がれた状態で被害者が自殺した年齢で同じことをしてやる、的な展開が無くもなさそうなのですが・・・本編を読む限りは生きたかったから何度も生まれ変わったのではないか、その思いが何度も生まれ変わらせたのではないかと考えます。

死神と旅する女

なぜ時影はフジの夫を殺したのか?

時影がフジを使って描きたかったものは第二次世界大戦に日本が参戦しなかった世界。
ただしそれ以外にも描きたかったものはあったはず。

時影は戦争をとめた云々の話をした際にフジが殺した人間の半分以上が戦争に導く人間だったと話しています。
半分以上という事は半分近くは無関係の人間が戦争とは無関係な人間の可能性が高いですよね。

もちろん導く人間を直接やるだけではなく関係する人間をこまめに消して修正していった、とも考えられそうですが・・・それにしては被害者が偏り過ぎているんですよね。

被害者はほぼ全て大人の男性。
女性はほぼ無し。
そこに何かしらの意図があるとも考えられそうですが・・・

若い女性のフジだったからこそ仕事がやりやすい男性だったのか。
フジが最初に殺した男がフジの代わりをしていたら女性もターゲットになっていたのか。
それとも時代的に男性の方が影響力が大きかったのか。

仕事の時系列的には順不同っぽいので時間関係はよくわかりませんが妖刀は200年近く血を吸い続けているとの記述があるんですよね。
登場した時の記述から考えると1700~1900年辺りで世界を描き続けていた可能性が高そう。
とすれば男性の方が犠牲になる可能性が高そうな気はします。
ただしそれでもほぼ女性がターゲットにならないのはよくわかりませんが。

で、その数少ない女性ターゲットがフジの最初の旦那になる可能性があった男の妻。
結局フジはその女性をやりきれなかったのですが・・・その際に時影がプレゼントのつもりだと言っているんですよね。

描きたかった世界に関係する人間ではないがフジのこれからの世界に大いに影響を与える可能性の高い人物。
それをわざわざ殺させようとしたのは無心に仕事を続けるフジにそれなりに報いたいという思いがあったと考えられます。

しかしフジは殺害を拒否。結果としてフジは違う人間と結婚する事になった訳ですが・・・その夫はフジにとって必ずしもいい夫ではなかったはず。
夫の事で愚痴るフジを見てかつてできなかったプレゼントをしようと考えたのではないでしょうか?

ただこの考察は最後まで読めばわかる事。
無垢ではないお前のかわりに「絵を描いてくれる」との記述があるので。

しかし気になるのが時影は個人の「幸福なんか知らん、わからん」とも言っているんですよね。
夫から暴力を振るわれているから不幸なのか。それとも焼夷弾でやかれていないから幸せなのか。
その辺の事情はその人間になってみないとわからない。だから干渉しないとも言っているように見えるのですが結局はフジの夫は時影の絵筆によって殺害された模様。

個人の幸せなどは知らんと言っている時影ですがそれでも自身の理想の世界を描いてくれたフジにプレゼントをしたいと思ったのか。
それとも何か他の意図があったのか。

最終的には夫の安否を確認するためにフジは何十回と行ってきたように立ち上がっていくのですが・・・それは果たして暴力が振るう夫がいない幸せにつながるのか。
それとも夫を失った不幸となってしまうのか。それともまた別の感情を抱くのか。

私個人にはわかりませんが・・・時影もわからないからこそやってみた可能性がありそうな気がします。
理想の世界を描くという大きな目的以外にも個人の世界を意のままに描いてみたい。そう思ったからこそやってみたのではないかと考えてみます。

お爺ちゃんの絵

考察断念。

いやあ・・・これは読み返せない。怖すぎる。
これホラーじゃないですか。マジで怖いというか後半の描写がエグいのですが。
・・・いやこれホラー小説集だった。他のがホラー以外の要素多めだったので勘違いしていました。

一応簡単な考察っぽいもの、おばあちゃんが実際に何をしたかですが・・・
両親を殺害。
お爺ちゃんをストーキング。監禁。拘束。殺害。絵具を作成。
そして絵を作成。

以降は妄想だと思うのですが・・・読み返したくないので考察断念。
この話は箸休めというかおばあちゃん以外の描写があればまだ読み返せるとは思うのですが・・・全部おばあちゃんの妄言というかおばあちゃんの独自すぎる世界で塗りつぶされているので無理でした。


以下読了後、追記予定。

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