小説 すみせごの贄 感想

小説 すみせごの贄
ネタバレありの感想です。

とりあえず一通り感想を書きました。
細かいネタについては後日追記していく予定です。

各短編について解説してある箇所がありますが公式の解説文ではなく個人の解釈で解説しています。
解説が間違っている可能性がある事をご了承ください。
別の解釈があるのではないか?などあればコメントをお願いします。

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たなわれしょうき

・感想

人間怖いと思える話。

実際はしょうき、というか謎の存在の方が怖いのですが・・・やっぱり物理で攻撃してくる輩も怖いですよね。
というか操られていた人間が襲ってくる展開はシリーズでも結構ありましたが自分の意思で襲ってくる人間は初めてじゃなかろうか。物理的な攻撃に弱い琴子だったら敗北していた可能性すらありそう。
野崎で良かったね。
まあ野崎だからこそ襲われた事案なのですが。

しかし散々”しょうき”について言及してきたのに霊障をまき散らしている存在は一切謎というのはどうなのかなあと思ってもみたり。

たなわれしょうきの伝承が残る場所に行ってみたよ。
そしたらなんか逆恨みしたやつに襲われたよ。
逆恨みした奴がなんかよくわからんやつにやられたよ。どうしよう・・・

というのは若干モヤモヤする。とはいえ短編ですしその辺が曖昧になっているのは仕方ない気も。
中編だったらその辺も詳しくやりそうですが尺が足りなさすぎる。

とはいえ話自体は面白く、そしてゾクっとするシーンもあったので短編集の最初の話としてはかなり良い作品だったと思います。

戸栗魅姫の仕事

・感想

短編でよくある琴子の無双シリーズ。

・・・かと思っていたのですが全く違いました。
まさに戸栗魅姫の仕事、というべき話。

琴子が対処方法間違える、もしくはわからないってのは中・長編シリーズではちょいちょいありますが(ししりば・ぜんしゅ・ばくうど、は単独で対処出来ていなかったはず?)短編で解決できなかったのは初のような?

とはいえ行方不明事件自体を解決する事は出来たはず。
もちろん力業であって後々禍根が残りそうな方法でしたが幽霊を消滅させる事はは出来たはず。
しかしインチキ霊能力者の戸栗魅姫によって事件はハッピーエンドを迎えられたという珍しい展開。

まあ実際7人ほど行方不明でそのまま亡くなっているのでハッピーではないのですが戸栗魅姫のおかげで円満に事件を解決できたのは間違いないはず。
琴子が強制的に除霊していたら悪霊化していた可能性がなくもなさそうなので・・・やっぱり戸栗魅姫は必要だったと思われます。

除霊後の展開も読後感が良いですね。
インチキ霊能力者であったのに、いやインチキ霊能力者だったからこそできる展開。
短編でここまで読後感が良い話があっただろうか・・・いや、結構あった気がする。
ファインダーの向こうに、とか。
なんにせよ色々と珍しい展開、そしてオチだったなあと思う戸栗魅姫の仕事の感想でした。

・・・琴子の過去話が出て琴子が弱いところを見せなかったところも含めて。
ぼぎわんの頃は完全無欠の霊能力者という感じの琴子ですがシリーズを、そして過去話を重ねるごとに弱い側面が見えてくるんですよね。今回それが全く無かったのも含めて珍しい展開だと思ってしまいました。

火曜夕方の客

単なる変わった客の話・・・
かと思ったら徐々に怖くなる話。
だがこれはちょっと感動系の良い話になるかなあ・・・と思いきや全くそんな事はなく店が潰れて終わり、というなんとも読後感の悪い展開。

そもそもの話、ユウレイになった子供たちは犠牲になってますからね。
読後感が良い話になるはずもない。
ただ、直前の短編が犠牲者が出たにも関わらずちょっといい話風で終わっていたのでこちらもそんな感じで終わるかなあと思いきや・・・ユウレイを商売に利用したツケと言わんばかりに店主が精神的に参ってしまうというのはなんとも言えない。

ある意味自業自得と言えなくもないのですが飲食店なんて数年持たずに潰れるのが普通ですからね。
店主が何かしらの対策、それこそ幽霊にも縋る思いでユウレイを利用したとしても責められるでしょうか?
とはいえファミリーマートがお母さん食堂で炎上したのも記憶に新しいところ。
その辺の配慮をせずに・・・いや、ファミマが炎上したのは2021年。
この物語は2018年っぽいので・・・店主が責められるのはちょっと酷ですね。
なんにせよ飲食店の経営は難しいという話で・・・そんな話でしたっけ?

とにかく新しい犠牲者は(店主以外)出ていないものの微妙に読後感の悪い短編でした。

ユウレイ

5歳?と6歳の女児の幽霊が合わさったものがユウレイの正体だったようですが・・・気になるのが肩車をしていたのか、それとも別の方法で1人の女性に成り済ましていたのか、です。

これって重要だと思うんですよ・・・だって店だと一口食べてから持ち帰りしているんですよ?
肩車していたら上しか食べられないじゃないですか・・・。
どちらが上になるかで口論となってもおかしくはない。

しかしこの二人が優しい性格をしているのは確か。
何せ自分達でも美味しいと思うカレーを一口だけ食べて我慢して弟の為に運んでいたんですよ。
遺体もきっちり並んでいた事から弟を優先しつつも自分たちは色々と分け合っていた可能性が高い。
なのでユウレイとなった際も2人で一緒に少しずつ食べられるように一緒になっていたに違いない・・・
まあ週替わりで上と下が変わっていた可能性はありますが。
その場合作中千円札が無かった時に争いになっていた可能性はありそうですが・・・あまり細かい事を追求するのは止めておきます。

くろがねのわざ

オタクが極まったあまりにもオタク過ぎる話。

なにこのスタンドのワンダー・オブ・Uみたいな呪いは・・・。
自分の秘密を暴こうとするだけで、作品に深く触れようとするだけで発動するスタンド・・・じゃない霊障ってあまりにオタクの極み過ぎる。

一葉が消息不明となってその後の状況がよくわからないので実際他にも何か霊障の要因があるのかと思ってしまったしますがその辺はスルー。詳細が語られていないので。

劇中で言及されているゴジラの芹沢博士のように自分の作品を悪用される事を恐れていた可能性はありそうですが・・・それ以上に自分の作品で秘密、女優の傷を隠すと決めたからにはその秘密を絶対にばらしたくない、というやたら強すぎる思いがあったと思われます。
なんて厄介なオタクなんだ・・・

そんなオタクの頂点に立つような人物の鉄もそうですが劇中で登場する人物もオタクぞろい。
人の見た目だけで特撮幹部で呼ぶとか・・・これだからオタクは。
オタクからお前人望ないからグリオン様な、とか言われたら私はその相手をケミストリーしてしまいそう。

と、こういった風に全く関係ない話に自分の知っている知識を使って悦に浸っているのがオタクです。気をつけましょう。

閑話休題。
事件の真相はなかなか複雑だったのですが話の展開自体は面白くなかなか楽しい短編でした。
終盤の展開がやや急だとは思いましたがそれは短編である以上しかたないかな、という気も。
最後の主人公の選択が気になりますが・・・なかなか楽しめた短編特撮話でした。

途中参加する異形幹部

調べてみたけれどもわからなかった。
鉄は1986年の特撮の途中参加する異形幹部を造形した、との事ですが・・・なんだろうか?

作中フラッシュマンの話題がやたら出てくるのでそれかと思ったのですが追加幹部ってサー・カウラー以外いましたっけ?
サー・カウラーって顔出し幹部だし除外。

この作者さんの話って実際に登場する作品の名前使っていたりするので(鎧武とか)これもそうかな、と思ったのですが架空の登場人物が作ったものと実際の作品をリンクさせる事はなさそうなのでこの途中参加する異形の幹部の件についても創作ですかね?

もしかしたらスーパー戦隊以外の作品かもしれませんが・・・多分創作だと思われます。

しかしゴジラとかは暈すのにスーパー戦隊と仮面ライダーは実名出すのはなぜだろうか。権利関係だろうか。

レー・ネフェル

真琴は実写映画化のイメージになっていたのですが・・・この短編のせいでレー・ネフェルになりそう。
まあ映画の真琴も髪の色を変えればレー・ネフェルに見えなくもなさそうなので真琴のビジュアルは大体そんな解釈でいいのかな?

イガム王子

圧倒的説明不足。峰さんの補足ではイガム”王子”なのにイアル姫の”お姉さん”と呼ばれていたのかわからないじゃないですか・・・これだからオタクは。厚田は論外。
まあこのシーンでは峰は厚田のどうでもいい話は省略して説明していたような気がするのでやっぱり厚田が悪い。

イガム王子はスーパー戦隊・光戦隊マスクマンに登場した顔出し敵幹部。
劇中では王子と呼ばれ男性扱いされていたものの終盤で実は女性でイアル姫の双子のお姉さんだった事が判明。
なのでイアル姫のお姉さんなのにイガム王子、という訳です。

詳しく知りたい方はTTFCに会員登録してマスクマンを全部観てね。

水爆で生まれた怪獣を殺した後に自殺した、偉い博士

これは初代ゴジラの芹沢博士のはず。
最近公開した方のゴジラは関係ない。はず。

劇中ではオキシジェン・デストロイヤーという超兵器を開発。
平和利用に使用したかったが悪用される事を恐れて公表・使用しなかった。
現代の兵器では太刀打ちできなかったゴジラを倒すために使用。その後、兵器が悪用される事を恐れて自殺した、という話・・・だったはず。

しかし短編の鉄はこの博士の事を語っていたらしいですが・・・さすがに芹沢博士はその秘密を暴こうとしたやつを呪い殺そうとする事はなかったはず。多分。
ただし初代ゴジラを殺した後でも散々ゴジラを誕生させてきたのは芹沢博士の呪いなのかもしれない。

気になるのは他の項目でも書きましたがフラッシュマンは実名なのにこちらは暈しているんですよね。何故だろうか。

とこよだけ

大がかりな叙述トリック短編。
まさか最初から最後まで真琴がイマジナリーな存在だったとは・・・

短編、しかも築井さんの話から始まったら築井さんの話だと思うじゃないですか・・・。
終わってみれば築井さんの話って本編にほぼ関係ないと言うか・・・日記のお爺さんぐらいの存在じゃないですか。
全くん別の話でも成立するという。

しかもタイトルが「とこよだけ」
”とこよ”の”たけ”。つまりとこよの茸の話になりそうじゃないですか。
結局ミスリードだよ・・・途中でマジックマッシュルームの話もミスリードに思えてきた。
まあ化け物は菌類が見せているようにも見える、との記述があるので完全な間違いではなさそうですが・・・それはさておき。

そうやって真琴と野崎との会話・・・というか真琴と築井さんの会話が若干、ほんとうに変かな、と思うぐらいのささやかな違和感から目を反らす事に成功したって訳ですね。
少なくとも自分は完全に騙されました・・・

この作者さんの作品は年月日がわかる描写が多いのですがそれがなかったのもひっかけですよね。
3月という記述はあったのですが・・・2020年以降の3月で真琴が普通に登場していたらおかしいですし。完全に騙された・・・

この短編集では短編集だけあって大がかりな叙述トリックがないかと思ってしまっていましたが・・・良い意味で裏切られた短編でした。

解説

ばくうどの悪夢を読んでいない読者にはちょっとわかり辛いオチだったと思われるので解説。

同じ比嘉姉妹シリーズの「ばくうどの悪夢」ではとある事情で真琴が眠りから覚めない状態に陥り病院に入院しています。

この辺は解説すると「ばくうどの悪夢」のネタバレになってしまうので止めておきます。
何故真琴が眠りから覚めないのか。「ばくうどの悪夢」とはなんなのか。

など気になる方は「ばくうどの悪夢」を読んで下さい。

ただし・・・「ばくうどの悪夢」以外で真琴が入院する事になっている可能性もありますが。
この短編。3月という事、真琴と野崎が結婚している時期という事以外、時系列を特定する要素がないっぽいので。ウルトラマン80の人形が出てますがさすがにこれは判断材料にならない。

恐らく「ばくうどの悪夢」の後の話である可能性が高く、そして「ばくうどの悪夢」の影響で真琴が入院している可能性が高い話である、という解説でした。

余談1
「ばくうどの悪夢」の後の話だとすると真琴が登場した直後の野崎の反応がやや淡泊に見えます。
この島がそういった性質の島であると認識はしていたようですが・・・もう少しリアクションがあってもいいのではないかと思ってしまう。

ただ野崎もこの時点(恐らく2020年以降)では怪異と遭遇しまくっていしまっているのでそういった現象に慣れてきてしまっていたのかもしれない。

余談2
「ばくうどの悪夢」以降の話だとするとこの話が時系列的に最新という事になりそう。
つまり最新の時系列でも真琴は「ばくうどの悪夢」から覚めていないという事でもありますが。
次の長編でこの真琴が覚める事になるのだろうか?

すみせごの贄

出オチ短編。

もう辻村ゆかりが出る時点で出オチ確定なんですよ。
いやでもさすがにこのミステリーっぽい流れで辻村ゆかりオチやったらまんま「あの日の光は今も」じゃないですか。
「悲鳴」は若干捻ってあったしさすがに同じオチはないだろう・・・と思っていたのですがまんま「あの日の光は今も」でした。
もうミステリーを力業でホラーにするのはやめて・・・。

という訳で一番期待していた短編が一番面白くはなかったです。残念。

解説

感想だけだとオタクが訳のわからない事を書いているだけなので少し解説を。
公式ではなく個人の解説なので間違っていたら是非指摘してください。

今回の短編ですが・・・
”すみせご”は辻村ゆかりが誕生させた怪異であると思われます。

父親を監禁した流れなどは辻村ゆかり先生が解説した通りの流れだと思われます。
監禁した本人も認めてますしね。

その後、監禁した地下室で鈴菜が遭遇した怪異は元々この地域にいた怪異ではなく辻村ゆかりがその能力で発生させた怪異である可能性が高い。
理由を書くと無茶苦茶長くなるので詳しく知りたい方は

「ずうのめ人形」

「悲鳴」(などらきの首に掲載)

「あの日の光は今も」(さえづちの眼に掲載)を読んで下さい。


要は辻村ゆかりにはある程度望んだ怪異を引き寄せる事が出来る能力がある、という事です。

もちろん怪異が普通に存在する世界観なので”すみせご”が普通に存在しており、たまたま親子を襲っただけの可能性はありますが他の人物が襲われていない以上、辻村ゆかりが引き寄せた”すみせご”のような存在が親子を惨殺した、というオチだったと思われます。

余談
ちょっと気になるのが今回のゆかりに善意があったように思える事。
「あの日~」は完全に悪意があって(そんな親子関係認めない、的な)事件を解決していた訳ですが今回は鈴菜を助けようとしていたようにも思えます。
父親に何かをしたけど不可抗力で父親が殺されていたら娘のせいではないよね、的な考えがあったような・・・

今回は自分の過去と鈴菜の現状を重ね合わせて同情していたようにも思えるので・・・多少なりとも人の心を持ち合わせている事には違いないんですよね。
問題は・・・こいつが何かを強く望めばそれだけで怪異が引き寄せられるって事ですが。
自分の能力を完全に自覚したのが時系列的にはこの後の話になる「ずうのめ人形」なので今回の話や「あの日の~」では怪異を引き寄せようと思ってやった訳ではないはず。
多少なりとも自覚はあったかもしれませんが・・・とにかく今回は純粋に鈴菜を救いたかった可能性がありそう。

まあ結果はご覧の有り様だよ、なのですが・・・

さらに余談。

この文章を書いているのが2024年3月23日。
「すみせごの贄」が発売されたのが3月22日。私が読了したのが3月23日。
しかし何故か3月22日に「辻村ゆかり」で検索してうちのブログに来る人が多かったんですよね。
しかも何故か「さえづちの眼」もクリック数が増えている・・・

発売されたのはさえづちでしたっけ?とか思いながら最後の「すみせごの贄」のページをめくったら・・・謎が全てとけました。
そりゃあ「辻村ゆかり」で検索する人が増える訳だわ・・・

納得すると同時にちょっとしたホラー体験をしてしまった気分になってしまいました。
りーたん怖い・・・

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