小説 アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿 感想

小説 アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿
ネタバレありの感想です。

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ネタバレ薄めの感想

いい意味で騙された短編集。

比嘉姉妹シリーズと比べればホラー要素は薄目。
どちらかと言えばミステリー作品。
ただ、ミステリー部分が明かされ、その犯人の真意が明らかになると露わになる恐怖感。
これもある意味ホラー作品。

怪異だけがホラーではなく人間の心理そのものもホラーだと思わせてくれる作品でした。

ラストの展開はまさかのアレでしたが・・・良い意味で騙されました。

笑う露死獣

感想

一番最初の短編からオチが重い話。
暗号の他は下ネタ関係の落書きばかりだったのでそういったオチなのかなあ、と思いながら読んでいたのですが・・・関係なくはないですがまさかそういったオチだったとは。

冒頭の文章が非常に軽いノリだったのでちょっとした謎を主人公が解いていって最後はああ、この文章はこういった伏線だったのね、と楽しめる内容だと思っていたのですが全然違いました。
タイトルの「笑う」からしてもっと軽いやつかと思ったんですけどねえ・・・。
ある意味ホラーですね。比嘉姉妹シリーズとは違ったリアルなホラー。

ただ気にになるのは看板に書かれた電話番号。
身長190cm(?)の井出さんの目線に書かれた、つまり180cmぐらいの高さにあったのですが・・・誰が書いたのでしょうか?

もちろん小野さんではありえない。狙っている子供が見つけられない場所にあるので。
つまり被害者の誰かが大人に、それも恵体な大人に気がついてほしかった落書きだと思うのですが・・・真相は如何に。
「20歳を過ぎていても覚えていたら殺される」という仮説をくっちゃんが唱えていたので・・・大人になって復讐してね、という事かもしれないし違うのかもしれない。
そもそもこの「仮説」を言った後、しばらく経過してから飛び降りているので・・・関係ないのかもしれない。

「笑う露死獣」を笑えなくしてやる、そういった意気込みで書かれたかは定かではないですが気になる点でした。

小野さん

子供とよく雑談していた。
公園のゴミを拾っていた。
子供扱いせず、対等に接してくれていた。
痴漢が出没した時など子供を気にかけていた。

これだけ書くといいお爺ちゃんなのですが・・・叙述トリックとはこの事か。
しかし亡くなった年齢が78。(2013~2014?)
フォルダは1998から2012まであった事を考えると・・・60過ぎてからやり始めた?
果たして被害者はこの事件だけで済んでいるのだろうか。

主人公が見つけた証拠が全てとは限らないですしね。
まだまだ余罪がありそうな気がします。
心不全で亡くなった、というのも実際には呪いによって・・・シリーズが違うので多分違うような気がしますが因果応報ではありそうな気がします。

歌うハンバーガー

感想

これはオチ、というか展開が解り易かった。
車を避けた後、章が区切ってあるので。
・・・オチが読めたのはかなり先ですが。
ヤクザっぽい幽霊が「俺、自覚ある珍しいやつだから」と言った時点でようやく気が付いた程度の読解力しかありません。

それはさておき冒頭の文章がこの短編の主人公のものなのか、じゃあこの短編は笑う~の主人公がメインではなく「アウターQ」のウェブライター達の話?
とか思っていたのですが・・・そんな事は全然なかった。基本的には湾沢陸男の話なんですね。

しかし話のオチはともかく読後感はあまりよろしくない。
仕事に行き詰って過食と拒食を繰り返したライターが復帰するのかと思いきや、お亡くなりに。
本人は至って幸せそうなのが救いですが・・・

あと気になるのが2点。
店名がシンギン・ハンバーガー、という事でタイトルが「歌うハンバーガー」なのだと思いますがあまり歌う要素ないですよね。
シンギンって別の意味がある?
呻吟(しんぎん)って言葉=苦しんでうめくこと がありますが流石にこれは関係ないはず。単に「見える人」になっちゃった店主がそんな意味を込めて店名つけないでしょう。
そもそも店の看板にト音記号らしきものあるらしいですし。
単に歌えるような、そんな雰囲気の店にしようと思ったらそんな雰囲気に出来ないお客さんがい憑いてしまったとか?よくわからない。

もう1点。
八坂さんが何を基準に執筆依頼をしているのかが不明。湾沢も守屋雫も過去に大きな実績がある訳ではない。そもそも守屋はほぼ休業中の状態。何を基準に依頼したのか?
何かしらの意図があるのかもしれませんがこの章まで読んでもわかりませんでした。
最後まで読めばわかるのやら。
数年前に八坂に会っていたはずの守屋が覚えてないってのも気になります。かなり個性的な外見をしていると思うのですが・・・。


飛ぶストーカーと叫ぶアイドル

感想

こちらもオチが解り易い・・・はずだったのですがキャラが個性的というかアクが強すぎてメインの人物の事を忘れてしまっていました。
メイン登場人物が元仏教系アイドル「ぱ☆GO!陀」の阿闍梨、改め亞叉梨。とか一発で覚えられそうなキャラだったのですが・・・それ以上に練馬ねりのキャラが強すぎた。

酎ハイのロング缶を片手に登場。ライブでは酒を飲みながら料理。
ファンも微妙な反応しか出来ないアイドル・・・地下ドル?地底?
そしてライブが終わったらパックの酒を片手に再登場。
その上何か博識っぽいし・・・で、こちらに気を取られていたらいつの間にか事件が終わってました。
恐るべし練馬ねり。

「飛ぶストーカーと叫ぶアイドル」という印象的なタイトルではありましたがそれ以上に個性的なアイドル(?)、練馬ねりに全部食われていたような気がしないでもない章でした。

仏教系アイドル 餅田阿闍梨

調べてみたら本当にいるんですね。世界は広い・・・。
となるとライブ時の台詞は全部仏教関連って事ですよね。

気になったのでこの章のメイン人物「阿闍梨」に関して調べてみました。

「阿闍梨」
先生という意味。そして阿闍梨はあざり、とも読めるようで・・・怪我前後で改名はしつつも同じ意味合いの言葉?

「衆生」
「命ある者」「心をもつ者」の意。
らしいですが仏教系アイドルの事を衆生と呼ぶらしい?

「十万億土」
「十万億仏国土」の略。現実世界と極楽浄土との間にある無数の仏土(仏の世界)のこと、らしいです。

なるほど・・・よくわからない。
よくわからない事がよくわかりました。

しかし練馬ねりが最後のシーンで先輩って言ってはいましたがねりは芸歴?3年ほど。
作中の時間では阿闍梨が17歳のはず。ねりの先輩なら3年以上芸歴があるはずなので・・・中学校1年、下手したら小学校時代から仏教アイドルとして活躍していた?

それはそれで何か業が深い話となりそうですね・・・地下アイドルだけに。
作中でもそのモチベーションがよくわからないとは言われていましたが本当によくわからなかった。

飛ぶストーカー

自業自得はいえ、殺害された後に阿闍梨のファンに運ばれてクラウドサーフィングされて刺された結構可哀そうな人間。自業自得ですが。

しかしちょっと疑問点が。
死因は後頭部の骨が粉砕されていたとの事ですが・・・つき飛ばして頭を打っただけでそんな事になるのでしょうか?
後頭部を粉砕した事がないのでわからないですが。
ストーカーは栄養状態が悪かったからそれも粉砕された要因?

阿闍梨がライブ会場に到着した時に衣類に枯れ葉が付着していた。ストーカーは公園に潜伏していた。なので公園でもみ合いになってやっちゃったぜ!的な状態になったのはだと思いますがなんか不自然な気もします。

実際は阿闍梨がストーカーを突き飛ばしたところでファンのストーカー(ややこしい)が登場。あとは任せて行け、的なやりとりがあったとか?
で、その後クラウドサーフィングする事を思い付いてから後頭部を粉砕して・・・的な事があったような気がしないでもない。

ファンのストーカーからしたらストーカー(ややこしい)が2年前に阿闍梨に危害を加えて逃走したことは周知の事実。捕まえて突き出すだけでも良かったところをついやってしまった、という事もありそうな気がしないでもない。
ただそれだと復活ライブに水を差すような真似になるので・・・やっぱり阿闍梨が殺してしまった、という事なんでしょうかね?

もしくは阿闍梨がやっていないのに自分がかばった体で自作自演。一蓮托生でこれからも一生ついていくぜ、的なヤバイ発想のストーカー(ファン)だったとかは・・・邪推しすぎですかね?

オリエント急行殺人事件

ねりの台詞で気になったので調べてみたのですが・・・そういう話だったのか。
ネタバレ食らってしまいましたが納得できました。
個人的にはこの手の事件で思い出すのがミシシッピー殺人事件なのですが・・・あれは若干違うような気がする。ネタバレになりそうなので細かく書くのはやめておきます。

令和になってミシシッピー殺人事件を自力でクリアしてやるぜ!という気合の入った人間がどれだけいるかは知らないですが。

目覚める死者たち

感想

このシリーズも怪異の存在はありなんですね。
王子が失踪したのは怪異の影響の可能性が高いですし。
もしかしたら怪異ではない可能性もありますが・・・主人公、Kさんが同様の現象に遭遇している事。ラストで事情を知らないウズマキさんが謎の音を聞いた事からほぼ確定でしょう。
まあ歌うハンバーガーで幽霊の存在がいる事、それが見える人がいる事から怪異がいてもおかしくはない世界観である事はわかっていたのですが実際に怪異がいるといないとではこのシリーズの見方がかわってくるので。

しかし怪異が存在するしないは別として熱血屋の店主があれ過ぎて話的にはいまいち。
結局のところ”たけだや”に嫌がらせする事には成功していたようですが熱血屋が儲かっていたかといえば・・・そんな事はないですしね。恐らく駅周辺の評判を落とし続けていただけ。
成功率の低さ、そして因果関係の証明をし辛さ云々ひっくるめて「プロバビリティの犯罪」だと思うのですが結局”たけだや”潰れても熱血屋が繁盛していなかったでしょうしね。
怪異の存在の有無にかかわらず遅かれ早かれ潰れていたでしょう。
熱血屋が仕掛けてきた話を中心に考えるとあまり面白くなかった。

しかし逆にメインキャラクターの掘り下げとして見ると結構面白い話でした。

湾沢は人気ライターとなった自分の影響力を利用して熱血屋の嫌がらせを止めようとしていた。
自分の力を最大限利用して事を収めようとした。その理由も突き詰めて考えると”怒っていたから”。

極めて個人的な理由で、しかも事実を突きつけても解決するとは限らない案件。
それでも熱血屋たちを追求する湾沢。彼の過去話や性格を深堀する話だったと思うと面白く読めました。

そして練馬ねり回でもあったはず。
表紙を確認すると3人の人物がいますがどうも湾沢、井出、そして練馬の3人っぽいんですよね。
「飛ぶストーカー」だけのキャラかと思いきや、今後も登場しそうな練馬ねり。
オリエント急行殺人事件やプロバビリティの犯罪といったミステリー要素だけではなくどうやら怪異にもある程度認識があるっぽい描写があるのですがこれが今後どう関わってくるのか。楽しみです。

見つめるユリエさん

感想

目覚める死者たち、で怪異の存在を匂わせていたのでこれもそうなのかな、と思って読み進めていくと・・・一番やばかったのは人間というオチ。
これは騙された。

まあ物語が偶然に偶然を重ねすぎているので全く怪異や霊的な存在が関わっていないか、と言われれば微妙ですが(比嘉姉妹シリーズの「ファインダーの向こうに」のように作家の意志が残っている可能性?)話の本筋としては”ぼく”が精神を病んでいる、という後味の悪い話。

なぜ首を絞めて殺す、という思いになったのかが不明なのも後味が悪い。
この辺は読み込みが足りないのかなと思い、再度読んでみたのですがよくわかりませんでした。
色々モヤモヤする話。

渦牧真希

序盤から登場していたウズマキさん登場。
この名前はペンネームである事。
八坂さんとは中学校(それ以前?)からの知り合いだと言う事。
ロマンス系の話に食いつく事らしいことが発覚。
ショートカットで背の高い、無表情でこけしみたいな顔をしているとの描写もありましたが・・・この編集部はかなり雰囲気が怖い気がする。
スキンヘッドの八坂。190㎝の長身でタンクトップの井出。こけし。うん、ホラーっぽい。

ユリエさん

気になるので情報整理。
書いたのは白石啓子の夫(名称不明?)。
暗い絵ばかりを描く夫だった模様。

題材にしたのはユリエではなく20年以上前の啓子。
啓子には娘が一人いて名前が百合絵。
現在の百合絵は昔の啓子に瓜二つ。つまりユリエと百合絵は瓜二つ。

”ぼく”が何故、啓子の絵にユリエと名付けたのか。
なぜ夢の中でユリエの首を絞めて殺すのか。
全く説明がないので完全に憶測ですが・・・これを書いた夫は何かしら娘に対して思うところがあったのではないでしょうか?
夫の描写が少なすぎてさっぱり不明ですが夫の思いがこの絵に影響を与えた可能性はありそうです。
ただしその影響を受けているのが”ぼく”だけで所有し続けていた”ぼく”の両親に影響がなさそうなのを考えると・・・”ぼく”自身の抱えていた何かとこの絵に込められた思いが重なり合って今回の話になったのではないかと推測してみます。
まあ要は結局何もわからないのですが。

映える天国屋敷

感想

ラスト。かなり急展開で終わると思ったら・・・連作でした。
天国屋敷と地獄屋敷で連作だったんですね。
タイトル見ればわかりそうなものですが・・・タイトル読んでませんでした。

そして・・・

涙する地獄屋敷

感想

まさかの全部繋がっていたとは。
これは全く気が付きませんでした。

もちろん黒幕の正体にも。まさか黒幕がアレだったとは・・・。
犯行動機がアレだったのもさっぱり。いやあ、まさかアレが伏線になっていたとは。

主人公が順調に人気になり過ぎているのはやや引っかかっていたんですよね。
あまりにも順調過ぎる。
これは怪異の手によって見せられている夢ではないか。もしくは何かしらの影響があるのでは・・・と無駄な妄想をしてしまったのですがそんな事はなかった。
まあ実際はもっと恐ろしいものだったのですが・・・黒幕の動機が壊れすぎていて怖い。

黒幕が誰かを判断出来る伏線は散りばめられていたとは思うんですよね。
ただしその場合はそれをやる為だけに大量の人間を巻き添えにする作戦。そして何より守りたかったはずの人間が巻き込まれるの作戦を実行するのはどうなのか、といった点がひっかかるはず。
手段と目的が一致していないというか。
その辺を考慮すると黒幕は仮定の段階で除外される人間だと思うのですが・・・自己満足に近い形でやろうとしてたなら別ですよね。
動機云々ではなく誰がやれたか、と考えられれば黒幕がわかったのかもしれませんが・・・自分は全く気が付きませんでした。

というわけで黒幕はさっぱりわかりませんでしたが面白く読めました。
比嘉姉妹シリーズはホラーとミステリーのバランスが絶妙でその辺の塩梅が好きなのですがこういったミステリー要素強めの作品もいいですね。
短編集と見せかけて全部繋がっていたという展開も良かったです。いい意味で騙された。

黒幕

犯人は井出さんだったんですね・・・。
主人公が順調に仕事で成果をあげられているのは井出さんのおかげだったとは。
一番の伏線は花火大会事故直後、病院で出会った際に普通に話していた事?

しかし色々精神的にぶっ壊れてますよね。
主人公の前ではアレ、アレと連呼しててヤバイ人かな?と思っていたのですが想像の斜め上のぶっ壊れ具合だった。

主人公と一緒に仕事をするうちに徐々に復讐心が薄れて、みたいな展開だったら人間味があるとは思うのですがラスト、自白し始めてもしばらくはアレ、と言ってましたからね。
途中で復讐やめようかな、と思う事はあったようですが主人公に対する怒りは収まらなかった模様。
自白し始めてようやく多少落ち着ける程度の怒り具合。
よく直接的に手を出さなかったと思います。作中だと2年?ぐらい経過しているはずなのに。
途中しれっとデマを流したやつは罰したとか言ってますし・・・結構余罪もありそう。

黒幕を予想出来た人はいるとは思いますが動機を完全に理解できた人はほとんどいなさそう。
むしろ正確に理解出来ていたらそっちの方が怖い。

黒幕予想

感想ではなく私が予想していた黒幕について。
読んでいる途中では王子かな、思っていました。

主人公に恨みがある。
同じライター系で記事を利用して貶めようとした理由付けにもなる。
内部事情に詳しいのは共犯がいれば可能。
という事で王子だと予想してしまったんですよね。共犯はウズマキ。

王子が失踪したのは公式に発表されていないはず。
所在を確認したのはウズマキ。ウズマキが花火の音がした云々という話を主人公にしていましたが二人が繋がっていれば問題なく可能。

主人公を王子とウズマキと共謀して陥れようとしている。
細かい点は色々気になるけれども犯人はきっと王子!

と思ったがそんな事は全くなかった。
逆に言えばガチの怪異にやられたって事ですよね。王子は。
合掌。

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